救世主はかく語りき
暑い。
いや、夏だから当たり前と言えばそれまでなのだが、今年の夏はちょっと異常じゃないかと思う。
何やら東京の方では観測史上最長の7日連続猛暑日を記録したらしい。
小学生の頃の私なら、夏はこうでなくっちゃ、などと諸手を挙げて喜んでいたかもしれないが、20代になると、そんな余裕はなくなってくる。
何の余裕がないかって、体の一番てっぺんの方。
そう、頭髪である。
暑さだけなら、まだ私のハートは耐えられるだろう。だが、その暑さによってとめどなく頭から噴き出す玉の汗は、私の頭皮を蒸し、湧き出る皮脂によって毛根を窒息させる。しかもかゆい。
我慢できずに髪に指をうずめて掻きむしろうものなら、指を抜いたときに黒ずんだ毛根を伴って、5、6本は平気でからまってくる。
その光景には背筋が寒くなる思いだが、そんなことで涼をとってもうれしくはない。
髪が減れば多少は風通しがよくなるとかいう輩がいるけれど、心の中はいつでもホットでいたいわけ。you know?
私は、この抜け毛の加速が、今年の異常な暑さに起因するものなのかどうか考えてみた。
少年時代、私の髪はサラサラで、いわゆる坊ちゃん刈りだった。黒髪の美少年というにはほど遠かったが、まあどこにでもいるわんぱく小僧。
私の現在の毛髪戦線の戦況は、生え際がじりじりと押されてきている状況であるが、思い返せば、少年時代から、そんな予感はあった。
なんとなくそこだけかゆくなりやすかったし、汗の量も多かった気がする。毛の密度も、他の部分より小さい感じもしてた。
でも、それはあくまでも、そんな気がしてたというだけの話であって、成人してから、その部位から髪が抜けだすなんて思ってもみなかった。
ところが敵は、何年も前から布陣を整え、一斉突撃する時を、虎視眈々とねらっていたのだ。
まあ、当時の私にそれを防ぐ術があったかと言われれば、もちろんなかったし、現在も手をこまねいている状況だが、だからといってこのまま敗れ去るつもりはない。
まずは防衛ラインをしっかりと築き、相手の隙をついて、あわよくば失われた領土をとりもどしたい。
しかし、現実はそう甘くはないのだろう。
もし無惨にも、ジヒドロテストステロン(男性型脱毛症(AG)を引き起こすホルモン)の猛攻により、全滅させられた場合はどうしよう。
最初からこんな弱気ではいけないのはもちろんわかっているが、一応そのときのことも私は考えずにはいられなかった。
検索エンジンで、「ハゲ 髪型」とか入力すると、ちょっとおでこが広くなったり、髪の密度が小さくなった男性の、いろんなヘアスタイルが、カタログのように映し出される。
自分の抜け毛具合と見比べて、「こんな髪型なら、ハゲても悪くないかもしれない」などと一瞬でも考えてしまった私は、やはり性根からして敗者なのだろうか。
しかし、そんなサイトやスレッドをいろいろと見ていると、ふと、偉人や有名人の名言集(?)みたいなサイトに流れ着いた。
そこに彼はいた。
ハゲof ハゲ、キングof ハゲ、ハゲの申し子・・・
そう、かの有名なハリウッドスター、ブルース・ウィリス閣下である。
彼はディスプレイの中で、アップの顔にダンディな微笑みを浮かべてこう言っていた。
「男は髪の量で決まるんじゃない。ハートで決まるんだ!」
私は彼が、頭皮世界が滅亡を迎える際に天より降臨するという、救世主(メシア)に見えた。
私はそのアップの彼の写真をみながら、両手を胸の前で組んでいた。
そうだ、我々にはメシアがついているではないか。不毛な荒れ果てた大地にも救いはあるのだ。
そう思った。
しかしながら、私がその救済を求めるには、あまりにも私の髪はまだ多いように思える。
メシアの境地を拝む前に、私は最後の一本になるまで闘おうと思う。