ドッペルゲンガー
先日、学生時代の友人であるサチエ(仮名)からLINEでメッセージがきた。
「がんちむ~!そっくりな人が今目の前通り過ぎてったからLINEしちゃった!笑」
私は福岡県の出身だが、県外の大学に進学し、四年間一人暮らしをしていた。彼女とは大学でゼミが一緒だったのだが、地元が同じということもあり、卒業後は二人とも同じ地元に帰って就職した。同じ街に住んでいるとはいえ、卒業以来、彼女とは一度も会ってはいなかった。せいぜいゼミで作ったLINEのグループで、誕生日のメッセージを送り合うくらいだ。
そんなサチエからのLINEである。
もちろん、世間は自分が思っているよりもずっと狭いので、思っても見ない場所で旧友に遭遇しても何ら不思議ではない。しかも私たちの場合は同じ街に住んでいるのだから、彼女が私の姿を目撃する確率は普通に考えればずっと高いのだろう。
しかしである。私はその日、地元にはいなかった。所用のために少し遠出をしていたのだ。
となると、彼女が目撃したという男は十中八九、私ではないはずなのだが、念のため以下の可能性を考えてサチエに提示してみた。
1. 未来の私がデロリアン的にタイムスリップしてきた。
2.サチエは私のドッペルゲンガーを見た。
3.単純にサチエの見間違え。
サチエは迷わずに2を選んだ。さすがである。自分の目は決して疑わないのだ。私はサチエが見たというドッペルゲンガーについて、お得意のウィキペディアで調べてみた。
予想通り、あんまり嬉しくなるようなことは書いていなかった。
ドッペルゲンガーとは自分とそっくりの姿をした分身なのだが、自分のドッペルゲンガーに会った人間は、近いうちに死ぬということだった。
記事によれば、芥川龍之介もエイブラハム・リンカーンも、自身のドッペルゲンガーに会っているらしい。ご存知の通り、彼らは天寿を全うしてはいない。芥川は自殺し、リンカーンは暗殺されている。
私はげんなりした気分になりながらも、
「この街にいるなら、俺死ぬ確立高いな笑」
などという面白くもなんともない文章をサチエに返した。もうやけくそだった。
しかし彼女は盛り上がっているようで、
「やばいよ気を付けて笑やつはこの街にいるからね!高確率の死笑」
楽しそうに返してきた。
「死」の真後ろに「笑」ときたね。
私は若干頬を引きつらせながらその文面を目で追う。彼女はさらに続けた。
「保険契約しとき!私の窓口で!」
彼女は銀行の窓口で働いているのである。
すごいやこの人、めちゃくちゃ商魂たくましいんだもん。
かわいいうさぎのスタンプで、
「なんちゃって♡」
なんて付け足してくるあたりもさすがである。結局サチエは、
「窓口で暇してるから遊びにきてよ~」
とOL感満載な文章を送ってきて、私としても、
「そうだね~笑」
みたいな感じでそのやりとりは終了したのだが、ドッペルゲンガーに遭遇する可能性がある以上、私はビクビクしながら街を歩くことになるのだ。
なんせ「高確率の死笑」ですから。笑笑笑