言い回しって大事
もし知人の浮気現場にばったりと遭遇してしまったら・・・。
幸いというべきか、私にはそのような経験はないし、今後もないことを願うばかりだが、こんなとき、一体どう対応すればいいのだろう。
ある本を読んだことがきっかけで、そんなことを少しだけ考えた。
近所のブックオフに立ち寄ったときに、何の気なしにふらふらと棚を眺めていたら、ふとある本に視線が留まった。
薄い背表紙には、『ピンチを切り抜ける「とっさの一言!」』と書かれていた。
私は自然とその本に手を伸ばしていた。
私自身、会話があまり上手ではないため、とっさの切り替えしができなくて困ることがよくある。そのため、何か有益なフレーズでもないかと気になったのだ。
税込108円でこの本を購入し、家に帰って早速読んでみた。
文頭のシチュエーションも本書に書かれていた場面の一つである。
私の性格なのだろうか、
つい『自分の立場をガードする「とっさの一言」』という章と、『うまく断るための「とっさの一言」』という章を真剣に読み込んでしまった。
その中でも、
①立ち入ったことを質問してくる相手に対して・・・
②つきあいたくない飲み会に誘われたとき・・・
③お酒に弱いので、相手からのお酌を断りたいとき・・・
といった項目は、リアルにその場面が想像できてしまった。
私はお酒が飲めないので、友人と食事などに行っても、普通にコーラを注文する。
相手が友人なら、別に飲み物などに気を遣う必要もないし、そんなことを気にして付き合わなければならない相手なら、そもそも最初から友人になんてなっていない。
問題は目上の人間に対してだ。
会社などの組織にいると、否が応でも勤務時間外の付き合いがある。
上司が「今日飲みに行くぞ」と言ったら、
内心では「あっそう、どうぞご勝手に」と、冷やかに呟いていても、最終的には上司に付き合うことになる。
そんなとき、いくらか役に立たないだろうか思って、それらの項目を参照してみたのだ。
ちなみに、私は各シチュエーションに対して、心の中でいつもこう思っていた。
① うるせえな。おめえに関係ねえだろ。
② なんで終業後にまであんたと顔突き合わせなきゃいけねえんだよ。
③ 飲めないもんは飲めないんだから、仕方ねえじゃねえか。
典型的なゆとり世代の考え方だ、などと言われてしまいそうだが、事実そう思っていた。もちろん実際に口に出すことはないし、相手によっては、誘われても悪い気にはならないのだが・・・。
そしてこちらが、本に書かれていた模範解答的なフレーズだ。
①立ち入ったことを質問してくる相手に対して・・・
ご質問はお手柔らかにお願いします。
②つきあいたくない飲み会に誘われたとき・・・
今回は失礼しますが、次回はご一緒させてください。
③お酒に弱いので、相手からのお酌を断りたいとき・・・
医者に、とめられているんです。
なるほど。
私はそう思った。
確かに、どのフレーズも、自分の意向を失礼なく伝えられている。
しかしどうだろう。本当にそんなに簡単に事はうまく運ぶものだろうか。
私の上司の中には、「飲みにケーション」などという、時代錯誤な言葉を恥ずかしげもなく平気で口にして、居酒屋に引っ張り込もうとする上司もいたし、「酒が飲めない奴がいるなんて、信じられない」などと豪語する者もいた。
そんな人間に対しては、きっと何を言っても無駄なのだろうとすら思う。
よくよく考えてみれば、
そんなフレーズをわざわざ用意しておかなくてはならないこと自体、私はどうかと思っている。
相手に対する好き嫌いの感情を率直に表現してしまうのはよくないが、仕事とは関係のない個人の趣味趣向まで、誰かに気を遣って選ばなくてはならないのだろうか。
実際にはなかなかできないのは承知しているが、
私は私、あなたはあなた。
それではいけないのだろうか。
しかし、それを言ってまとめてしまえば、この本を買った意味がない。
誰かに何かを伝えるときは、やはり相手の気分を害さないほうがいいに決まっている。
本の中には、すぐにでも使えそうなフレーズもたくさんあった。
例えば、反対意見を述べたいときなどに、「違う角度からお話させてください」と言ったり、相手の思い違いと指摘するときなどに、「こういう考え方もありますね」とさりげなく訂正してあげる言葉には本当に納得した。
私も間違えることはよくあるので、そう言ってもらえたらいやな気持にはならないと思う。
頭の中で飛び交う罵詈雑言を抑えて、さらりとスマートに、こんなフレーズが出せたらちょっと気持ちいいだろうな。
そんなことも思った。
そして文頭に書いたシチュエーションである。
知人の浮気現場に出くわしてしまったとき・・・
しかもバッタリ真正面から目が合ってしまった。
こんなときは、さらりとこう言えばいいらしい。
「人違いでした」
・
・
・
・
・
・
言えるかあ!