がんちむの備考帳

身近なことを一生懸命考えると、どうでもいいことがどうでもよくなくなったり、どうでもよくないことがどうでもよくなったりします。

映画「進撃の巨人」を観に行った。

 

 ジュラシック・ワールドといい、進撃の巨人といい、この夏は人が食べられる映画しか見ていない気がする。

 

私の心のどこかで、そういう自滅願望みたいなものがあるのだろうか。

 

それとも、私の内奥に潜むどす黒い攻撃欲求が、そういった刺激を求めているのだろうか。

 

確かに、常にストレスは溜まっている。

 

嫌いな人間はたくさんいるし、中にはこの世からご退場願いたいくらいの人間もいる。そして向こうも私に対してたぶん同じことを思っている。

 

 だから私はよく、想像の中で殺人を犯しているのだけれど、私がその相手を殺すとき、用いるアイディアは決まって銃殺か爆殺である。

 

ゴッド・ファーザーのアル・パチーノよろしく、スマートに相手のドタマをぶち抜くか、ブラックラグーンバラライカのように、ビルの一室に相手を縛り付けて閉じ込めたまま、ビルごと派手に爆破するのだ。

 

こう書いてみると、マフィアものばっかりだな。

 

 もちろん、私にはドン・コルレオーネやミス・バラライカほどのカリスマ性も度胸もないが(あったらあったで大変だけど)、ビビりな小物なりに、ハードボイルドやダンディズム的なものに憧れているのだ。

 

 

新入社員だった頃、新人研修で、みんなの前に出て喋る機会があった。

 

みんなと言っても、同期の社員二十数名と、監督役の上司が二人くらい。

 

上司がいろいろと質問を浴びせて、それに答えていくという形式の茶番だったけれど、私に対する質問の中で、「趣味は何ですか?」というのがあった。

 

ああ、よくあるね。その質問。

 

私としては、大した趣味もないし、できることなら一日中鉢植えのパキラのようにじっとしていたい人間なのだが、上司の手前、エントリーシートの趣味・特技の欄に記入した、「読書、映画鑑賞、ランニング、カラオケ」というインドア派四点セットを上げた。

 

ランニングは屋外活動だが、私が実際にしていたのは、夜中に、たまにジョグする程度の散歩である。横文字にした方が、なんとなくウケがよさそうだと思っただけ。

 

 私は、質問をした上司がカラオケに食いつくとヤマを張っていたのだが、上司は意外にも映画について深く追及してきた。

 

「どんな映画が好きなの?」

 

「マフィア映画です」

私はさらりと言った。別に本気でそう思っていたわけではないけれど、その前日か二日前、たまたまゲオで借りたゴッド・ファーザーPARTⅡを観たばかりだったから、つい頭に浮かんだのだ。

 

「どうしてマフィア映画が好きなの?」

 

上司は笑いながら言う。だから私も笑顔で答えた。

 

「嫌いな人間がいたとして、映画の中で殺されている人に、そいつの姿を重ね合わせると、少しはストレス発散になります」

  

半分は冗談のつもりだったのだけど、部屋を見渡してみると、皆一様に頬を引きつらせて私に注目していた。

 

数秒の沈黙の後、小さなせせら笑いが聞こえ、上司も苦笑していたけれど、目は笑っていなかった。

 

 

数年経って、映画館のスクリーン上で暴れまわる巨人たちを見ながら、新しいストレス発散のイメージを発見したなどと考えていた私は、やはりどこかしら間違っているのかもしれない。

 

断っておくが、私は決して誰かに危害を加えてやろうなどという、反社会的なことは考えていない。

 

映画館に行ったのだって、本当はミニオンズを観るつもりだったのだ。

 

だけども、ミリオンズが完売で席が空いていなかったので、仕方なく進撃の巨人にシフトチェンジしたのだ。

 

夏休み最後の日曜日ということもあり、映画館はちびっ子たちで溢れていた。

 

家でおとなしく、終わっていない夏休みの宿題でもしていてくれたら、私が巨人たちを見ながら妙な妄想を働かせることもなかったかもしれない。

 

そんな考えが一瞬脳裏をかすめたが、もちろん余計なお世話である。私だって、まともに夏休みの宿題なんてやっていなかったのだから。

 

 

家に帰って、お風呂に入りながら、ぼんやりと映画のことをもう一度考えていた。

 

巨人に食い殺されるというのは斬新な死に方ではある。今までに人類の誰一人として経験していないのだから。

 

そんなくだらない妄想にまだ浸っていた。

 

だが、そんな風に斜に構えて物事をいつも見ているからだろうか。 

 

私は目下の現実すらも、まともに把握できてはいなかったことを悟った。

 

シャンプーをして鏡を見る。

 

何度も目を皿にして見る。

 

目を血走らせて見る。

 

頭皮という名の世界で、私のウォールマリアはほとんど崩壊しかけているのだった。